選択式設問の正誤~論理学からのアプローチ~その2(林)

記号選択式設問の正誤を論理学から考察する2回目です。
今回も論理学の術語と考え方を紹介します。

答え合わせ
前回のおしまいに出した練習問題の答え合わせです。
問題を再掲します。

問題1
次の文を【  】かつ【  】という形か
    【  】または【  】という形に
書き換えなさい。
(1)赤坂さんはくつとカバンを買った。
(2)マーサ21かモレラ岐阜のどちらかは営業している。
 必ず主語と述語をもった二つの命題を「かつ」もしくは「または」でつなぐ形で答えてください。

解答
(1)赤坂さんはくつを買った。
      かつ
   赤坂さんはカバンを買った。
(2)マーサ21は営業している。
      または
   モレラ岐阜は営業している。

問題2
次の命題Pと命題Qに対して、P∧Qの真偽とP∨Qの真偽を言いなさい。
1.P:岐阜県の県庁所在地は岐阜市だ。
  Q:愛知県の県庁所在地は名古屋市だ。
2.P:岐阜県の県庁所在地は岐阜市だ。
  Q:愛知県の県庁所在地は岡崎市だ。
3.P:岐阜県の県庁所在地は大垣市だ。
  Q:愛知県の県庁所在地は名古屋市だ。
4.P:岐阜県の県庁所在地は大垣市だ。
  Q:愛知県の県庁所在地は岡崎市だ。

解答
P∧Q 1.真 2.偽 3.偽 4.偽
P∨Q 1.真 2.真 3.真 4.偽

否定の定義
ある命題を否定するとは、その命題が偽であると主張することです。
もう少し厳密に定義すると、
命題Pの否定:命題Pが偽であるすべての場合を主張する命題
となります。
命題Pの否定は「¬P」と書きます。
(他の書き方もあります)

前回紹介した二値原理を前提にすれば、否定の意味は次のように定義できます。
¬P Pが真のとき、¬Pは偽。
   Pが偽のとき、¬Pは真。

具体例を使って練習してみましょう。
次の命題Pと¬Pの真偽を言いなさい。
1.P:琵琶湖は日本一大きな湖だ。
 ¬P:琵琶湖は日本一大きな湖ではない。
2.P:琵琶湖は世界一大きな湖だ。
 ¬P:琵琶湖は世界一大きな湖ではない。

答えは簡単でしょう。
1.では、Pは真、¬Pは偽。
2.では、Pは偽、¬Pは真。

これが標準的な命題論理における否定の定義です。
前回紹介した真理表を用いて表すと次のとおりです。
真を1、偽を0と表記します。


二重否定則
二重否定とは否定の否定です。
否定形の命題をもう一度否定することです。
日常の言葉を使って説明すると、少しややこしいのですが、やってみましょう。

イルカはほ乳類である

これを否定すると、
イルカはほ乳類ではない
となります。

これをさらに否定すると、
イルカはほ乳類ではないではない
となります。

「イルカはほ乳類ではない」ではない
とは、
「イルカはほ乳類ではない」を偽とする
ということです。

すなわち
イルカはほ乳類である
と等しくなります。
このように、否定を二回くり返すと肯定になります。

日常の言葉を使って説明すると混乱しそうです。
記号と真理表を使えば簡単明瞭に理解できます。

Pが真のとき、¬Pは偽、そして¬¬Pは真
Pが偽のとき、¬Pは真、そして¬¬Pは偽
となります。

Pと¬¬Pの関係に注目してください。
Pが真のとき、¬¬Pも真
Pが偽のとき、¬¬Pも偽
となります。
つまり、真偽という観点からはPと¬¬Pはまったく同じになります。
それゆえ、
二重否定¬¬PはPに等しい
は必ず成り立ちます。
このように論理的に必ず成り立つ事柄を
論理法則
と呼びます。
二重否定の論理法則は「二重否定則」と呼ばれます。

同値
「等しい」という言葉の意味を明確に規定しておきましょう。
「同値」という術語を導入します。

二つの命題PとQに関して、
Pが真ならQも真であり、
Pが偽ならQも偽になるとき、
PとQは「同値」であると言い、
「P≡Q」と書きます。
(他の書き方もあります)

この記号を使うと二重否定則は次のように表されます。
二重否定則 P≡¬¬P

命題論理の否定と日常言語の否定
二重否定則は、命題が真か偽のいずれかであるという二値原理に基づいています。
もしも命題が真と偽のどちらかというわけではないのであれば、二重否定則は必ずしも成立しません。
例を挙げてみましょう。

池田山の夜景は美しい
という文は真か偽かどちらかだと言えるような文ではありません。

この文の否定は、
池田山の夜景は美しくない

二重否定は
池田山の夜景は美しくないということはない
となります。

どうでしょう。
池田山の夜景は美しい
池田山の夜景は美しくないということはない

この二つの文は同じ意味だと感じますか。
「美しくないということはない」
という文は、「美しくない」ということはないけれども、積極的に「美しい」とも言えないという感じではないでしょうか。

このように日常の言葉は必ずしも二値原理に従うものばかりではありません。
これに対して命題論理は二値原理を前提にしています。
それゆえ、命題論理で定義された否定は、日常の言葉遣いにおける否定とは必ずしも一致しません。
つまり、命題論理の否定は日常言語の否定が含み持つ意味の一面を明確に取り出したものといえます。

矛盾律
否定に関連して矛盾律についても紹介しましょう。
「矛盾」という言葉は中国の古典『韓非子』難一篇に由来します。
中学校や高校の国語でも学習し、日本語でも使われます。
論理学では日常の言葉よりも限定された意味で用いて、

矛盾は
PとPでないを同時に主張すること
と定義されます。

例を挙げましょう。
三輪田さんは高校生であり、かつ、高校生ではない。

これは「三輪田さんは高校生だ」という肯定の命題と「三輪田さんは高校生ではない」というその否定の命題とが同時に主張されているので「矛盾」です。

さて、矛盾は必ず偽になります。
でも、矛盾はどうして必ず偽になるのでしょうか。
これは宿題にします。

問題
矛盾は必ず偽となることを真理表を使って確かめなさい。

何から手をつけてよいかわからない人にヒントを出します。
命題PはPと書きます。
命題Pの否定は¬Pと書きます。
Pが真である場合は1
Pが偽である場合は0
と書きます。
真理表を途中まで書いておきます。
この表を完成させて、矛盾は必ず偽になることを確かめてください。

できましたか?
答え合わせは次回に。