送別の漢詩 その2(林)

前回に続いて、送別の漢詩を贈ります。

王勃「送杜少府之任蜀川」
王勃(おうぼつ、650?~676?)
隋の思想家、王通の孫。
「初唐の四傑」の筆頭として、南朝以来の美文調が残る時期に清新な気風をもたらしました。

城闕輔三秦  風煙望五津
与君離別意  同是宦遊人
海内存知己  天涯若比鄰
無為在岐路  児女共沾巾
城闕(じょうけつ) 三秦に輔(たす)けられ
風煙 五津(ごしん)を望む
君と離別の意
同(とも)に是れ宦遊(かんゆう)の人
海内(かいだい) 知己存せば
天涯も比鄰(ひりん)の若(ごと)し
為す無かれ 岐路に在りて
児女と共に巾(きん)を沾(ぬ)らすを
ここ長安の都は三秦の地に守られ
風と靄の先に君が行く五津を眺める
君との別れを悲しむ心
我らはともに地方めぐりの下級官吏
天下は理解しあえる人さえいれば
天の果てほど遠くにいても
すぐ隣にいるようなものだ
分かれ道に臨んで
子供や女性のように手巾を涙で濡らさないでほしい

都の長安〔陝西省〕から蜀〔四川省〕へと旅立つ友を見送る詩です。
離別の悲しみを分かちあいながら、理解しあえる人さえいれば、遠く離れていても心はすぐそばにあると慰めています。
ただし尾聯の「子供や女性のように泣くな」という感性は現代にはそぐわないでしょう。

李白「送友人」
李白(りはく、701~762)
杜甫(712~770)と並ぶ中国史上最高の詩人です。
天宝元年(742)、翰林供奉〔皇帝の遊興の場で詩文を綴る官職〕に抜擢されます。
しかし、不羈奔放な性質は宮仕えに合わず、天宝3年に官を辞して各地を放浪します。

青山横北郭  白水遶東城
此地一為別  孤蓬征万里
浮雲遊子意  落日故人情
揮手自茲去  蕭蕭班馬鳴
青山 北郭に横たわり
白水 東城を遶(めぐ)る
此の地 一たび別れを為し
孤蓬(こほう) 万里に征(ゆ)く
浮雲 遊子の意
落日 故人の情
手を揮(ふる)って茲(ここ)より去れば
蕭蕭(しょうしょう)として班馬(はんば)鳴く
青い山並みが町の北に横たわり
清らかな川が町の東をめぐって流れる
この地に別れを告げれば
君は風に転がるヨモギのように
万里のかなたへとさすらうのだ
空に浮かんで流れる雲は旅立つ君の心
赤々と沈む太陽は別れを惜しむ私の思い
互いに手を振ってここで別れると
互いを乗せる馬までが悲しげに鳴く

旅に出る友を町はずれまで見送り、別れを惜しんで詩を詠みます。
李白の「黄鶴楼送孟浩然之広陵」も送別の詩ですが、本巣校2月5日のブログに書きました。

岑参「胡笳歌送顔真卿使赴河隴」
岑参(しんじん、715?~769)
天宝3年(744)の進士。
西北地方の節度使に仕えていたため、西域〔中央アジア〕の風土を熟知しています。
前回紹介した高適(こうせき)とともに盛唐を代表する辺塞詩人です。

君不聞胡笳声最悲 紫髯緑眼胡人吹
吹之一曲猶未了  愁殺楼蘭征戍児
涼秋八月蕭関道  北風吹断天山草
崑崙山南月欲斜  胡人向月吹胡笳
胡笳怨兮将送君  秦山遥望隴山雲
辺城夜夜多愁夢  向月胡笳誰喜聞
君聞かずや 胡笳(こか)の声 最も悲しきを
紫髯(しぜん)緑眼の胡人吹く
之を吹きて一曲なお未だ了(おわ)らざるに
愁殺す 楼蘭(ろうらん) 征戍(せいじゅ)の道
涼秋八月 蕭関(しょうかん)の道
北風 吹断(すいだん)す 天山の草
崑崙山南(こんろんさんなん) 月斜めならんと欲し
胡人 月に向かいて胡笳(こか)を吹く
胡笳は怨みて将(まさ)に君を送らんとす
秦山(しんざん) 遥に望む 隴山(ろうざん)の雲
辺城(へんじょう) 夜夜 愁夢多し
月に向かいて 胡笳 誰か聞くを喜ぶ
顔君よ、哀切極まるあの胡笳(こか)の音色を聞きたまえ
紫のひげ、緑の眼をした胡人が吹いている
その一曲がまだ終わらないうちに
楼蘭へと征伐に向かう君の心を、深く悲しませる
冷たい秋八月、蕭関への道
北風は天山の草を吹きちぎっているだろう
崑崙山の南に月が傾こうとするとき
胡人は月に向かって胡笳を吹く
胡笳の哀しい調べをはなむけに、君の門出を見送ろう
ここ長安から遠く隴山の雲を眺めては
辺境の町は夜な夜な悲しい夢に包まれて
月に向かって吹く胡笳の音色を、誰が喜んで聞くだろう

顔真卿(がんしんけい)は南北朝以来の名門貴族の出身で、楷書の名手としても知られる人です。
胡笳、紫髯、緑眼、楼蘭、天山、崑崙山などの言葉が西域の詩情を醸し出します。
異域に赴く友を異国情緒豊かに見送る詩です。

薛濤「送友人」
薛濤(せつとう、768~831)
長安の良家の令嬢でしたが、父の死後に零落して花柳界に身を置きました。
その文才によって名声を博し、元愼・白居易・杜牧などの俊英と親交を結びます。

水国蒹葭夜有霜  月寒山色共蒼蒼
誰言千里自今夕  離夢杳如関塞長
水国の蒹葭(けんか) 夜 霜有り
月寒く 山色も共に蒼蒼(そうそう)たり
誰か言う 「千里 今夕よりす」と
離夢 杳如(ようじょ)として関塞長(とお)し
水郷の秋の夜
霜の降りたアシの葉も
寒々と月に照らされた山々も
すべてが青色に染まる
「千里の別れはこの夕べから」とは誰もが言うが
私には万里の長城よりもさらに遠い別れと思われる

この詩は『詩経』蒹葭の「蒹葭蒼蒼 白露為霜」を踏まえています。
「千里の別れ」という常套句では言い尽くせない万感の思いをレトリカルに詠んでいます。

さあ、いよいよお別れです。
祝愿同学们 身体健康! 学习进步!
      天天快乐! 万事如意!