昼飯大塚古墳を訪ねて(林)
「美濃の西陲を訪ねて」の2回目です。
美濃国分寺跡から中山道を東北東へ1.9kmほど進むと、街道の南に昼飯大塚古墳が見えてきます。
まずは文化庁文化遺産オンラインに基づいて、昼飯大塚古墳の概要を紹介しましょう。
昼飯大塚古墳は北側の金生山に続く標高25mの牧野台地上に立地します。
前方部を西南に向ける3段築成の前方後円墳で、周囲に鍵穴形の周溝が巡っています。
発掘調査により、古墳の規模は全長約150m、後円部径96m、高さ13m、前方部長約50m、前端幅約80mであることが判明しました。
後円部の墳頂は、埴輪が直径20mの円形に取り囲み、全面に礫を敷いています。
ここには、勾玉・管玉・臼玉・棗玉・算盤玉など約400点の滑石製玉類、少量のガラス玉、高坏や小型丸底壺などの土師器、笊形土器及び土製品など、墳頂部で行われた葬送にともなう儀礼に使われた器物が残されていました。
また主体部上には形象埴輪が設置されていたらしく、靱・盾・蓋・家形などの埴輪片が出土しています。
昼飯大塚古墳は、岐阜県のみならず東海地方最大級の前方後円墳です。
墳丘の構造、埴輪の特徴、埋葬施設の構造、一部判明している副葬品の内容、いずれもが畿内の大王墓に準ずる傑出した内容を持っています。
それゆえ、東海地方の古墳時代の政治・社会を考える上で欠くことのできないきわめて重要な古墳です。
【参考文献】文化庁文化遺産オンライン https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/164461
文化遺産オンラインの説明は、従来のオーソドックスな古墳観を反映しています。
すなわち、古代国家の形成過程を解明するために、ヤマト王権と地域勢力との関係を捉える指標として古墳を位置づけるという視座からの説明です。
この見方自体は決して見当違いではありません。
ただし古墳はもともと墓であり宗教的記念物です。
したがって、古墳はそれを築造した時代・地域の人々が抱いていた宗教観を具象化したものでもあるはずです。
この観点から古墳の「本質」に迫った書物が和田晴吾『古墳と埴輪』(岩波新書、2024年)です。
和田氏は立命館大学名誉教授で、日本の古墳を研究する考古学者です。
本書は、日本・中国・朝鮮半島の考古学的資料に依拠して、新石器時代以来の中国大陸及び朝鮮半島における墓制の影響を受けながら、列島独自の墓制が形成されてゆく歴史的過程を鮮やかに描出しています。
古墳に興味のある方にお薦めしたい良書です。
では、私が撮影した写真を御覧に入れましょう。
画像1は昼飯大塚古墳歴史公園の案内図です。
古墳の平面構造がわかりやすく示されています。
画像2は前方部と後円部が接合するくびれ部分の南から撮りました。
画面中央の右寄りが後円部、左側が前方部です。
画像3は前方部の下から後円部に向かって撮ったものです。
画面左の最も高いところから右下がりになっている部分が前方部。
一番低い部分がくびれで、その右手の台形状が後円部です。
画像4は前方部の頂から後円部に向けて撮影しました。
画像5は反対に、後円部の端から前方部を撮りました。
前方部の上面が三角形に広がっている様子がわかります。
画像6は後円部の墳頂から復元ゾーンを撮影しました。
斜面には礫が敷き詰められています。
また墳丘は3段からなり、最上段と中段の間、中段と下段の間にはそれぞれ円筒埴輪が並んでいます。
画像7は墳丘の最上段と中段の間に降りてきて撮影しました。
円筒埴輪が並んでいる様子と、墳丘の斜面に礫が敷き詰められている様子がよくわかると思います。
ここで、画像6と7をもう一度よくご覧ください。
下段の墳丘の外側に周壕が設けられています。
この画像を見て「おや?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。
歴史の教科書に掲載されている大仙古墳などは周壕に水が湛えられてます。
それに対して昼飯大塚古墳の周壕は空濠となっています。
どうしてでしょうか?
和田晴吾氏は古墳の周壕について次のように述べています。
現在、満々と水を湛えるもののほとんどは近世などに灌漑用のため池として改修されたものである。
本来の周壕に導水施設が備わっていないことからすれば、周壕に溜まる水としては天水や湧き水が考えられる程度で、常時の湛水はなかったものと思われる。
(和田晴吾、前掲書p.28)。
和田氏の見解に従えば、古墳の周壕は本来的に水を導き入れる施設を備えていないので、空濠が常態であったと推測されます。
それならば昼飯大塚古墳の周壕に水がためられていないのは学問的に適切な復元であると言えるでしょう。
最後に和田晴吾『古墳と埴輪』の口絵「前方後円墳完成予想図」(早川和子作画)を転載します。
昼飯大塚古墳も完成当時はこのような姿をしていたのでしょうか。
この後、1日目の最後の訪問地、中山道赤坂宿に向かいます。
次回にお話ししましょう。