「る」「らる」が生まれる(林)

高校1年生のみなさんは、古文を読むためのツールとして、古典文法の基礎を学び始めていることでしょう。

動詞・形容詞・形容動詞の活用を学習した後は、助動詞を学んでゆきます。
今日はそのうちの「る」と「らる」という助動詞について書きます。

四つの意味
「る」と「らる」は平安時代に生まれた助動詞で、どちらも自発・可能・受身・尊敬の意を表すとされます。
もともとの意味は自発であり、そこから残り三つの意味が派生したと考えられます。
その理由については別の機会に書きましょう。

「る」「らる」の接続
どうして「る」と「らる」という二つの助動詞があるのでしょうか。
これについては、上に付く言葉(「接続」といいます)が違うからと説明されます。

「る」は
四段活用動詞の未然形
ナ行変格活用動詞の未然形
ラ行変格活用動詞の未然形

にそれぞれ接続する。

「らる」は
上一段活用動詞の未然形
上二段活用動詞の未然形
下一段活用動詞の未然形
下二段活用動詞の未然形
カ行変格活用動詞の未然形
サ行変格活用動詞の未然形

にそれぞれ接続する。

だから「る」と「らる」の二つがあるのだと、文法書などでは説明されています。

「なぜ」という疑問
でも、どうして四段・ナ変・ラ変の未然形には「る」が付き、上一段・上二段・下一段・下二段・カ変・サ変の未然形には「らる」が付くのでしょう。

「そんなことはどうでもいいから、とにかく覚えろ。試験に出るぞ!」
なんて言われると、私などはげっそりします。
(個人の感想です)

母音に注目する
違いはどこから生じるのでしょうか。
それぞれの未然形の母音に注目してみましょう。

四段動詞「泣く」の未然形は「なかnaka」
ナ変動詞「往ぬ」の未然形は「いなina」
ラ変動詞「有り」の未然形は「あらara」
であり、それぞれの語を語根と母音に分けると
なかnak-a
いなin-a
あらar-a

となり、母音「a」が共通しています。

上一段動詞「見る」の未然形は「みmi」
上二段動詞「過ぐ」の未然形は「すぎsugi」
下一段動詞「蹴る」の未然形は「けke」
下二段動詞「捨つ」の未然形は「すてsute」
カ変動詞「来」の未然形は「こko」
サ変動詞「す」の未然形は「せse」

こちらも語根と母音に分けると、
みm-i
すぎsug-i
けk-e
すてsut-e
こk-o
せs-e

となり、母音が「i」「e」「o」であることがわかります。

ここから、
未然形の母音が「a」の動詞には「る」
未然形の母音が「i」「e」「o」の動詞には「らる」

が、それぞれ付くということが明らかになります。
上に付く動詞の未然形の母音の違いが「る」と「らる」の違いです。
詳しい文法書や辞書ならば、ここまで説明してくれるでしょう。

再び「なぜ」という疑問
でも私は、未然形の母音が「a」なら、どうして「る」が付き、未然形の母音が「i」「e」「o」なら、どうして「らる」が付くのか、その理由を知りたくなります。

「る」「らる」と上代の動詞
手がかりは「る」「らる」本来の意味が「自発」であるということです。
自発とは、ある動作や作用が
ひとりでに行われる
しぜんに実現する

という意味です。

ここで、先々週のブログ「ことばの学習は音が大切」の際に御覧に入れた自動詞と他動詞の対照表を再掲しましょう。

語尾が「る」だと自動詞、「す」だと他動詞という違いが見て取れます。

この自動詞を構成する接尾辞の「る」、正確には「-aru」は、助動詞「る」「らる」と語源的に共通すると考えられます。

さらに、この自動詞を構成する接尾辞「-aru」は、奈良時代まで用いられていた上代語の「生る(ある)」とも同源だと推定されます。

上代語の「ある」の意味が、
(神や天皇など神聖な存在が)出現する、生まれる
であり、助動詞の「る」「らる」と同じく、
ラ行下二段型の活用
であるということも、この推定を補強します。

整理しましょう。
いま推定しているのは、
①助動詞の「る」「らる」
②接尾辞の「-aru」
③上代語の「生る(ある)」
が語源を同じくするだろうということです。

母音の連続
もうひとつの手がかりが母音の連続です。
母音が重なる場合、
①一音が落ちる
②二音が合成されて一音になる
③ふたつめの母音の前に子音が付く
という変化のいずれかがおこります。

「る」が生まれる
さあ、ゴールが見えてきました。
四段・ナ変・ラ変の未然形に「ある-aru」を付けてみましょう。
四段動詞「泣く」= なか+ある nakaaru
ナ変動詞「往ぬ」= いな+ある inaaru
ラ変動詞「有り」= あら+ある araaru

いずれも「aa」と同じ母音が連続しています。
このため一音が落ちて、
nakaaru→nakaru 泣かる
inaaru→inaru 往なる
araaru→araru 有らる
となります。
それぞれ「なか+る」「いな+る」「あら+る」と見なし、未然形に「る」が接続すると考えます。

「らる」が生まれる
上一段・上二段・下一段・下二段・カ変・サ変の未然形にも「ある-aru」を付けます。
上一段「見る」= み+ある miaru
上二段「過ぐ」= すぎ+ある sugiaru
下一段「蹴る」= け+ある kearu
下二段「捨つ」= すて+ある sutearu
カ変「来」= こ+ある koaru
サ変「す」= せ+ある searu

整理すると、
「iaru」「earu」「oaru」となり、「ia」「ea」「oa」の形で母音が連続しています。
そこで、ふたつめの母音「a」の前に「あるaru」の「ru」と同じ子音「r」が付いて、
mi-aru→mi-raru 見らる
sugi-aru→sugi-raru 過ぎらる
ke-aru→ke-raru 蹴らる
sute-aru→sute-raru 捨てらる
ko-aru→ko-raru 来らる
se-aru→se-raru せらる
となり、助動詞「らる」が生まれたと推定されます。

平仮名でわかりやすく書けば、
いある→いらる(上一段・上二段)
えある→えらる(下一段・下二段・サ変)
おある→おらる(カ変)
と変化したということです。

以上が奈良時代と平安時代の資料を根拠として、現時点で導き出せる結論です。

方法的に考える
なぜそうなのか、どういう仕組みでこうなっているのか、という疑問を持ち、仮説を立て、資料・史料から根拠となる事実を集め(自然科学ならば実験をしてデータをとり)、事実に基づいて仮説を検証し、合理的な説明をする。

①疑問を持つ
②仮説を立てる
③事実を集める(実験をする)
④仮説を検証する
⑤合理的に説明する
物事を学び、自分の考えを作りあげるためには、この①から⑤にいたる方法的な思考が大切です。

もうひとつ。
得られた事実やデータから仮説を合理的に説明できないときはどうしましょう。
そのときは仮説を潔く捨てて、新しい仮説を作ります。
自分の仮説にこだわって、不都合な事実を隠したり、データを改竄(かいざん)したりしてはいけません。

この方法的思考は大学での学問にまっすぐにつながっています。

【参考文献】
大野晋『古典文法質問箱』角川ソフィア文庫、1998年
大野晋編『古典基礎語辞典』角川学芸出版、2011年