入試で出会う懐かしい本(林)

【懐かしい本】
中学3年生は学年末テストが終わり、いよいよ高校入試が近づいてきました。
少し前のことですが、令和4年度の公立高校入試では、私にとって懐かしい文章が問題に使われています。
それは国語の第3問が採用している、
岩崎武雄『哲学のすすめ』(講談社現代新書、1966年初版)
です。

私がこの本を読んだのは中学3年生から高校1年生にかけての頃です。
哲学に興味をもち、家の近く(といっても3kmほど離れた町)の書店で見かけて購入しました。
おそらくは哲学関係の書籍で最初に買った本だと思われます。

【哲学書は難しい?】
哲学書は難しいというのが世間一般のイメージではないでしょうか。
それはあながち間違いではありません。
古代ギリシアのプラトンやアリストテレス、近代でもルネ=デカルトあたりまではまだなんとかなるにしても、ドイツ観念論以降の哲学書は、手引きなしに読み始めると、難解すぎて何を書いているのか読み取れず、中途で挫折してしまいがちです。

哲学書はなぜ難しいのでしょう。
一つには厳密に定義づけられた言葉が独特な用法で使われているということがあります。
しかしそれ以上に、論理が複雑に入り組んでいて、考えの筋道を追っていくことができなくなるからでしょう。

哲学にも歴史があります。
後の時代の哲学者は、その前の時代の哲学者が議論したことを前提に、それをのりこえようとみずからの哲学を構築してゆきます。
それゆえ、時代を経れば経るほど、難しさが増してゆきます。
何の素養もなしに近現代の哲学書を原書で読むことは、非常に成功率の低い冒険=暴挙とさえ言えるでしょう。

【入門書の逆説】
日常の世界と哲学の世界を橋渡ししてくれるのが入門書です。
書店や図書館に行けば、汗牛充棟もただならぬという形容が決して大げさでないくらいに、多くの入門書が並んでいます。
それはまた、哲学の世界に挑んでは跳ね返された人びとの墓標の群れでもあるかのようです。
いかに多くの人が哲学の門に入ろうとして入れずに彷徨っていることでしょう。
優れた哲学者による優れた入門書が必要とされる所以です。

【本書の紹介】
『哲学のすすめ』も哲学入門書です。
著者の岩崎武雄氏は1913年生まれ。
東京帝国大学文学部哲学科を卒業し、東京大学文学部などで教授を務めました。
専門はカントやヘーゲルを中心とする西洋近代哲学です。

本書の構成は以下のとおりです。

まえがき
1.だれでも哲学をもっている
2.科学の限界はなにか
3.哲学と科学は対立するか
4.哲学は個人生活をどう規定するか
5.哲学は社会的意義をもつか
6.哲学は現実に対して力をもつか
7.科学の基礎にも哲学がある
8.哲学は学問性をもちうるか
9.人間の有限性の自覚
むすび

【本書の魅力】
とても平易な言葉を使いながら、本格的な哲学の思考へと読者を導いてくれます。
難解な内容を平易な言葉で、しかも思考の水準を落とさずに書き切ることは決して簡単なことではありません。
本書はその離れ業を難なくやり遂げています。
1966年初版という古い本ですが、内容は決して古くありません。
現在においても第一級の入門書と言えます。

【哲学との出会い】
私はその後、哲学を専門に研究する道へは進みませんでしたが、この書を出発点にさまざまな哲学書を読んできました。
私の哲学的読書遍歴の劈頭を飾るという意味で特別な書物です。

上述のごとく、私が最初にこの本を読んだのは15歳の頃でした。
当時の私と同じように、令和4年度の入学試験を受けた中学生のなかからも、哲学の門を叩こうと思い立つ人が現れるとすれば嬉しいですね。

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